六才 北朝鮮で
月の中で兎が餅をつき
かぐや姫が天に昇っていった
美しく明かるく輝いていた満月
十ニ才 引揚道中の野宿で
夜露に湿った草の間から
もう歩けない死んでもいいと
涙の一歩手前で見た白い月
十八才日本で
杉皮の屋根の透き間から
無性に泣きたいような
心細さと悲しさに
此処は本籍地と
自分を納得させながら
しみじみ眺めた三日月
二十四才 修道院で
神さまを捜し求めて
主よ 主よと呼びかけ
返事が欲しい
夢の中でもいいから会いたいと
切に願いながら
みつめた上弦の月
二十一世紀もまじかに
生かされて 今
思い出の中の
遠い哀しみがいとおしい
ありふれた日常の中に
さしこむ月の光は
大きな神秘に潤ちていて
淡く優しく
時に皓皓と輝いている